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岡山県 藤井健喜
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WH203
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1998-03-27
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17KB
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275 lines
第三話
一週間でマスターする悪の秘密組織
Introductry Remarks(前口上)
田辺奈美は平凡な高校生である。
あるとき、兄の開発した『ヒーロー変身薬』を飲んでしまった彼女は、ビキニスタイルの恥ずかしい格好のヒーローとなって、世界征服を企む悪の秘密組織『ダークブリザード』と戦うことになる。
人は彼女のことを『ウイークエンド・ヒーロー』と呼ぶ。
今日、彼女を待ち受けているものは一体何なのか…?
1
同じ日の夜。
「ダークブリザード?」
浩一の素っ頓狂な声が室内に響いた。
場所は、浩一の自宅のすぐ隣にあったガレージの二階を浩一自らが改造して自分の研究室に仕立て上げてしまった六、七畳ほどの部屋、の中である。
「長いんだよ」
俊雄に突っ込まれてしまった。
前にも、これと全く同じ内容の文章があったように記憶している。
話を戻す。
自宅に戻った奈美は、さっそく今日起こった事件の報告を行った。だがその内容は兄を驚愕させるに充分なものであった。
それがダークブリザードだった。
「そうなの」奈美はうなずく。「世界征服を企んでいる悪の秘密結社みたい」彼女は漠然とその内容を語った。
この言葉に、浩一とともに部屋にいた佐久間、野上の両氏は瞠目していた。
「悪の秘密結社?」俊雄はいぶかしそうだ。
「うん」奈美は首を縦に振る。「だって、そういってたんだもん」
「自分で自分のことを悪なんていうかねえ?」浩一がいう。
「あ、それはいってなかったけど」修正する奈美。
「でも、何かねえ…」冗談みたいだという顔をしながら直子がいう。メモとシャープペンシルを持ち出して何か書いている。
奈美は困ってしまった。別に、彼女だって好きこのんでこんな話をでっち上げている訳ではないのだ。
「で、そのダークブリザードとかいうグループが現れて、事件を起こしたと…?」浩一が訊いた。
「そうなの」奈美が答える。
部屋の中は涼しかった。窓は閉められていた。部屋の中の温度そのものが低いのだ。
「ダークブリザード…」浩一は組織名を繰り返す。どういうつもりでこのような名前を付けたのだろう? 『暗黒の嵐』なんて…
急に俊雄が口を開いた。「それがあんな事件を起こしたっていうのかい? いくらなんでも冗談きついぜ!」
「でも、もしこれが事実だとしたら、嫌な予感がするわね」直子がいう。
「じゃあ、どうするんだよ。インターポールや国連にでもいって何とかしてくれるように頼むのか?」
すると浩一がいった。「ただ、そうするにしても、その組織に関する情報が少なすぎるよ」
「困ったわね」直子は腕組みをする。
「よし」浩一が手をたたいていった。「この情報収集と分析には、みんな協力してくれ」
「わかった」俊雄が了解する。
「でも、えーと、ダークフィアーとかいう怪物の対処はどうするのよ?」速記したメモを片手に直子が訊く。「これはいよいよ皆目見当がつかないわ」
「そうだな。正体も、数も、まして弱点すらわかってない」と俊雄。
「これは、もう奈美に頑張ってもらうしかないな」浩一は妹を見る。
「…え?」
奈美は少々戸惑いを見せた。急に振らないで欲しい、そう思った。
「奈美、これからも、あの怪物と戦えるか?」兄が問う。
「え、ええ、たぶん…」
「ありがとう」
「へへっ…!」
指で鼻を擦る奈美。しかし、ちょっと不安だった。
外は秋の夜空が広がっていた。
2
ところ変わってダークブリザード本部。
ドクターダイモンが怪しげな機械のスウィッチを入れる。ダークフィアー製造機である。
ダイモンは叫んだ。「いでよ、新たなるダークフィアー!」
激しい振動のあと、製造機の扉が開いて、中から出来たばかりのダークフィアーが現れた。巨大な銀色風船に手足のついた怪物だった。
そのダークフィアーは叫んだ。「バルーン!」
テロップ『(ダークフィアー)ダーク・バルーン』。
「さあ、ダークフィアー『ダーク・バルーン』よ。行ってウイークエンド・ヒーローを捕まえてくるのだ!」ダイモンが命じた。
「バルーン!」怪人は再度叫んだ。
3
次の日の夕刻のことである。
中学生の女の子が、通学路を自宅へ向かって帰っていた。おとなしそうな雰囲気の子だった。
「ちょっとそこのお嬢さん」
みると、そこには派手な衣裳を身にまとったピエロの格好をした男がいた。手にナップサックを持っている。背負えばいいものを。
「美しいあなたに、これはささやかなプレゼントです」といって、紐のついたカラフルなUFO風船を手渡した。
「そ、そう…?」
はじめは不審そうに思う彼女も、ピエロのおどけたユーモラスな雰囲気に、次第に警戒心を解いてゆくのだった。
こうして彼女はピエロからのプレゼントを持ち帰った。
この途中、突然風船が割れた。風船の中から薬品が漏れた。睡眠薬だった。これを吸い込んだ彼女は、眠りに誘われその場にばたりと倒れてしまった。
この様子を近くで隠れて見ていたピエロはほくそえんでいた。電柱の陰から覗いていたのだ。
「ようし、いい調子だバルーン!」
ピエロは表面を覆っていたゴム製のマスクを破った。現れたのは銀色をしたUFO風船だった。いや、それが頭だった。目と鼻と口がある。語尾に「バルーン!」とつけて話したがる癖があるらしい。
「ははは! こうしてウイークエンド・ヒーローを捕まえてみせるバルーン!」
風船あたまの怪人は鼻息荒かった。
4
それから三日が過ぎていた。
東児島市で、中学生の女の子ばかりが何者かに誘拐されるという事件が、連続して起こっていた。
「最近、東児島市で中学生の女の子が次々と行方不明になるという事件が続発しています…」
この件は夕刻のテレビのローカルニュースでも取り上げられるに至った。最近これといった報道がなかったので、地元放送局も大喜びで放送しているわけだ。
田辺家は夕食の最中だった。
「奈美、おまえも気をつけろよ」テレビを見ながら浩一がいった。
「なぜ?」隣で奈美が尋ねた。
「だって、ただですらおまえは中学生に見えるんだから」
「…」
だが、それはまんざら冗談でもなかった。
翌日の夕方のこと。
奈美は、クラスメートの千加、冴子の二人と一緒に下校していた。
路上に人の気配はなかった。
静かだった。
「…それで、ああなったんよ!」
「へえ…!」
「すごいですわ」
会話を交わしながら歩いている三人の前に、不意に複数の人影が立ちはだかった。
「え…!」
三人は驚いて立ち止まった。
「バルーン!」叫び声。
それは、巨大な銀色風船に胴体と手足のついた人間、というより怪物だった。その周囲には、黒ずくめのスーツを着た人物が六人いた。
怪物とは、ダーク・バルーンであった。自分の口で風船を膨らませて作るのが得意だ。
「な、何よ、あんたたちは!」冴子が叫んだ。
「こ、怖いですわ…!」千加は冴子の後ろでおびえていた。
「なに、怪しいものじゃございません」怪物がいう。
「思いっきり怪しいじゃないの!」冴子がいう。
「…」風船は戸惑いを隠せない。
すると冴子が追い打ちをかける。「ははあん、わかったわ。あんたらね、最近中学生の女の子ばかりが行方不明になってる事件の犯人は…!」実は当てずっぽう。
「え…!」それでも驚く奈美。
「くっ、勘の鋭いお嬢さんだバルーン!」ついに本性を現すダーク・バルーン。口調が厳しくなる。
「ほめ言葉をありがとう」
冴子は口ではそういうが、心の中では正反対のことを思っていた。当たってるなんて、かえって自分の方がびっくりしたのである。
ダーク・バルーンがいった。「だが、そうとわかったら、こちらとて放っておくわけにもいかないバルーン!」
このとき奈美は直感した。〈も、もしや…!〉
「あんたたち、ダークブリザードね!」いきおい奈美がいった。
怪物の目が一瞬つり上がった。「む! なぜ我らのことを知っているのだバルーン!」
「そりゃ—あ!」奈美は変身していないことに気づく。あわてて取り繕う。「え? いや、その、『ダークな連中』といったんだけど…」何だそりゃ?
「とにかく、我々のいうとおりにしてもらおうかバルーン!」もはや引き返せない段階にきているようであった。
「そ、そうはいかないわ!」今こそ変身の時だと思った。
が、彼女はふと横を見て焦った。
しまった。千加がいる!
〈これじゃあ、変身できないよぉ…!〉
知られてはいけないのだ。特に部外者には。
「ダークウォリアーズよ、あの三人を捕らえるんだバルーン!」奈美の困惑をよそに怪人が指令を出した。
「ブラボー!」
黒ずくめの人たちが三人に飛びかかってきた。ダークウォリアーズとは、ダークブリザードに属する下級戦闘員のことである。別名、『ブラボー混声合唱団』ともいう。またはブラボー隊。
冴子たちは悲鳴をあげる。「や、やめてよ!」
「いやですわ!」
「ちょ、ちょっと…!」
抵抗する三人。だが無意味だった。
三人は目の前が真っ暗になった。
5
「ちょっと、奈美、千加、起きなさいよ!」
そんな冴子の声に、奈美は目を開いた。
「う、うーん…あれ、冴子?」
「もう、寝ぼけてる場合じゃないのよ!」
「みなさん、おはようございますですわ」千加はさらに輪をかけていた。
「ここは、どこなの?」奈美が訊いた。まるで見たこともない部屋の中に三人はいた。薄暗く、その広さすら判別できない。が、次第に目が慣れてきた。一〇畳ほどの広さの部屋だった。扉が見える。
「わからないわ」冴子は首を横に振ってから、自分の推測でものをいう。「どうやら、私たち、誘拐されたみたいよ…!」
「誘拐?」しかし手足を縛られているわけでもない。口をふさがれているわけでもない。どうも奈美は腑に落ちなかった。
「怖いですわ…!」それでも千加はふるえた。
奈美は周囲を見回した。と、対角線上の隅に複数の女の子のいるのがわかった。
「あれ、あんなところに女の子が大勢いるわ…」
「いったい、何があったんですの?」
奈美は近くにいた女の子に尋ねてみる。「ねえ、あなた、どうしたの?」
だが、泣いてばかりで話をしてくれそうにない。困っているところに別の女の子が話してくれた。「私たち、学校から帰ってると、ピエロが現れて…」
ピエロからもらった風船が割れたあと、気がつくとここにいたというのである。
「へえ…」奈美は風船の巧妙な仕掛けに感心した。そんな場合ではないと思うのだが。それに、そんなに感心するほどのことでもないと思うけど。
やはり奈美は浩一の妹であった。
「いったいどういうことなのかしら?」隣で冴子は首を傾げていた。
「おい、何を話してる!」男の声。
奈美たちは黙り込んだ。
部屋の扉が開いて、外から黒ずくめの衣裳を着た男がひとり入ってきた。奈美は「あっ!」と思った。下校中に現れた奴だ。黒ずくめの男だった。ダークウォリアーズの一員だ。
〈ということは、これはあの事件と関係が…!〉奈美は思った。だれでもわかることだったが、これは非常にやばいと感じた。
〈ダークブリザード、いったい何を考えているの…!〉
「いいか、静かにしてるんだぞ!」男はそういうと再び扉を閉めた。鍵をかける音。
奈美は何とかしたかった。
「奈美、こうなったら、変身してあんな連中倒しちゃいなさいよ!」冴子がささやく。どうやら、彼女も同じことを考えたらしい。
「え、ええ…」
彼女は立ち上がると、ドアに近寄る。周囲の女性が注目する。彼女は扉をたたいていった。「あの、ちょっとおしっこ」
「我慢しろ」戦闘員集団の男は無愛想にいった。
「漏れそうなの!」駄々をこねる奈美。
「…しゃあないな」覆面男は困ったようにいい、「行って来い。ここから出てすぐ左だ」
扉が開いた。奈美は静かに出ていった。
「あ、ありがとう!」
「逃げようとしても無駄だぞ!」
「は、はい」
奈美は部屋を出た。廊下の先に階段が見える。近くでは別の覆面男が二人ほど見張るように立っている。トイレはその廊下の途中にあった。彼女は静かにその中に入って戸を閉めた。幸い、中には誰もいなかった。
〈さあ、変身よ…!〉彼女は思った。
あまり派手にやると目立ってしまうので、ここは地味に変身ポーズを取った。
「Changing a HyperGirl…」手を胸に当てる。光の帯が回って、しばらくして消えた。
相変わらずの寒々しい姿だった。
「私のせいじゃないもん…」文句をいう奈美だった。
彼女はトイレをあとにした。そして元いた場所に戻って行く。
6
部屋の扉が開いた。
「きゃああああああああ!」一斉に悲鳴があがった。
女の子たちの前に現れたのは、銀色に輝く風船を頭に持った化け物だった。
「ええい、静まれえ!」
怪人は予定を変更した。声が外部に漏れては大変だからだ。
彼は扉を閉めてから細かな話を始める。
「私の名はダーク・バルーンだバルーン!」ダーク・バルーンが話し出した。どうでもいいが、そのややこしい語尾や言い回しはやめて欲しい。これ、作者からのお・ね・が・い、だからね。
ってやめるわけないよなあ。
「貴様らは我らダークブリザードの計画の餌なのだバルーン…!」と怪人。「どんなに泣こうがわめこうが無駄なことバルーン! 誰も助けに来ないバルーン!」
脅しまくる怪人だった。だが語尾のせいでいまいち凄みに欠ける。『ツインビーヤッホー!』のバルルーン兄弟よりたちが悪かった。あちらはまだ愛嬌があったではないか…
女の子たちの悲鳴は嗚咽に変わっていた。
「こ、怖いですわ…!」千加は怖がっていた。
冷静に見ればかなり滑稽な光景だとは思うけれども。
彼女たちにしてみればそれどころではないかかったようだ。彼女たちの目前にいる異形の者はやはり不気味なのだ。やはり、さすがにみんな怖くなってきたのだ。
〈もう、奈美はなにやってんのよ…!〉冴子のみがイライラしていた。
「ははは!」高笑いする怪人。「これで我々の計画もはかどるバルーン!」
「そうはさせないわ!」
不意にこんな女の子の声がした。
「むっ、誰だバルーン?」
怪人が叫ぶ。周囲に目を走らせる。だが人影らしき物はどこにもない。
声だけが続く。
「東児島の空のした、今日も誰かが呼んでいる。悪い奴等を懲らしめる、正義の味方の女の子。その名も—」
扉が開いた。
怪人たちの目の前に、人の姿があった。マントで前を隠している。片方の手には、失神した戦闘員の体を抱えていた。
「ウイークエンド・ヒーロー、只今見参!」
そういって人物はマントを翻した。それはビキニ姿の女の子だった。色はエメラルドグリーン。
「むっ、おまえはバルーン…!」ついに現れたかとダーク・バルーンは少し興奮していた。
「あなたのお仲間はすべてこの通りよ」奈美は戦闘員を床に放り投げる。誰もがのびていた。「あとはあなただけ。さあ、観念なさい!」
「なに、バルーン…!」目がひきつる。
「ダークブリザード、あんたたちのたくらみ、このウイークエンド・ヒーローが打ち砕いてみせるわ!」
「かっこいい…!」
人質のひとりに麻生(あそう)ちづるという一五歳の少女がいた。彼女はハイパーガールのその毅然とした態度に感動した。その目は輝いていた。
「か、かっこいいわ…!」彼女はもう一度声に出す。
市立東児島第一中学校三年A組の生徒である。身長一六二センチ。体重四九キロ。四月一五日生まれの牡羊座。この話にはやたら牡羊座の人がいるのは気のせいだろうか? 血液型はA型。スリーサイズは上から順に九三、五九、八八センチ。長い髪の女性である。ヘアバンドをしている。
見るからに制服が窮屈そうであった。
それにしても、適当に決めた設定だってのが見え見えだが、気にせず話を進める。さあ、テキストの四〇ページを開いて…
ハイパーガールはダークフィアーと向き合っている。
「ふふふ。ウイークエンド・ヒーロー、引っかかったなバルーン!」ダーク・バルーンの口調が若干変化した。ほんとに若干。
「え?」
「この計画のターゲットは最初から貴様だったのだバルーン!」
計画の立案者、ドクターダイモンは、このダーク・バルーンを使って、ウイークエンド・ヒーローを捜し出して捕まえようと考えていたのである。
ウイークエンド・ヒーローの容貌から、彼女は中学生であるとにらんだダイモンは、こうして中学生ばかりを狙っていたのだ。
しかし奈美は高校生だった。
「え…!」
「覚悟しろ、ウイークエンド・ヒーロー、バルーン…!」
怪人は背中のナップサックから風船を取り出して口で膨らました。体内に睡眠薬の混入したボンベを内蔵している。「食らえ、居眠り風船!」
「前回と同じネタは通用しないわ!」彼女はそれより早くダーク・バルーンの頭部を蹴り上げた。
何度もいうが、彼の頭は銀色風船。
いい音がして、風船は割れた。
「バ、バルーーーーーーン!」
ガスが抜けたダーク・バルーンは、一気に消滅した。
まさに一瞬の出来事だった。
近くにいた中学生たちは呆然となった。
「なんて弱い怪人なの…」冴子がぽつりといった。じゃあ、今までこんなところに監禁されていた自分たちの立場はどうなるんだ、という気がしてしまった。彼女はむなしかった。
気の毒なダークフィアー、ダーク・バルーン。彼は、早くも対戦時間の最短記録を打ち立ててしまった。ありがとう、君のことは決して忘れない…
「さあ、みんな逃げて!」ハイパーガールがいった。「この先に階段があるから、早く!」
みんないわれるまま逃げ出した。
そんな中、ただひとり彼女を見つめる女の子がひとりいた。麻生ちづるその人だった。ほかの子はキャーキャー悲鳴をあげながら我先にと争って逃げ出しているというのに、彼女は目を輝かせながらこちらを見ている。
そんなちづるに気づいた奈美がいった。「さあ、あなたも逃げて!」
すると長い髪を振り乱してちづるはいった。「はい!」ついでにこんなことを頼んだ。「あ、あの、握手してください!」
「え? いいけど…」奈美がいった。少し息が荒かった。体にうっすらと汗をかいている。
ちづるは手をさしのべた。奈美は軽く手を握った。
「ありがとうございました!」
ちづるはうれしそうに駆け出していった。
このときからちづるは心に決めたことがあった。
ちづるは思っていた。
〈いつかウイークエンド・ヒーローの弟子になってみせる…!〉
7
翌朝。よく晴れていた。が、ダークブリザードの本部は日光が入ってこない作りだった。窓がないのだ。そのかわり、燭台がある。
というわけで、ここは蝋燭で照明を作り出しているダークブリザードの本部である。東児島市内の某所にある、と一部で噂されている。ほんとに一部で。
『ウイークエンド・ヒーロー、謎の集団誘拐事件を解決』
『しゃべる風船が中学生を拉致!』
『人質は語る。あのひとはいいひと。ウイークエンド・ヒーロー』
新聞各種を見ながらブリザードはぼやいた。「うぬぬ、またしてもウイークエンド・ヒーロー…!」
「しかし閣下、あの中にウイークエンド・ヒーローがいたのは確かなようでございます」そういったのはドクターダイモンだった。二人でテーブルを囲み話し合っている。
「うむ。よし、あのとき誘拐した中学生のリストをつくれ。その中からウイークエンド・ヒーローに似た奴をピックアップしろ」
「はっ」
ブリザードは衣裳を脱ぐと背広姿になった。そして席を立ち、すぐ左横のエレベーターのボタンを押す。扉が開き、彼は中に入る。扉が閉まり、ゴンドラが上昇する。ある場所でそれが止まった。扉が開く。彼は外に出た。
外は明るかった。廊下が見える。壁の案内板には「市民課」とか「市長室」とか「食堂」とかの文字が見える。
そこは、市役所内だった。
彼は廊下を歩いた。
市長室の前ですれ違った職員が彼に挨拶する。「あっ、市長。おはようございます」
「おはよう」彼はいった。
「今朝は早いですね」
「ちょうど忙しい時期だからね」
「ごくろうさまです」
彼は職員と別れて市長室の扉を開けた。
彼の名は深沢公平といった。
東児島市の現職市長だ。
そして、ダークブリザードの首領、ブリザードでもある…
彼は市長専用の椅子に腰をおろす。椅子の後方には窓があった。市内が一望できる。ここは最上階なのだ。
公平はつぶやく。「ふふふ。覚えているがいい、ウイークエンド・ヒーロー…!」
不敵な笑みを浮かべながら。
窓から見える空はよく晴れていた。
次回予告
ちづる「はじめまして。麻生ちづるです。市立東児島第一中学の三年生です。私、ウイークエンド・ヒーローのファンになってしまいました」
奈美「だからって、私を追いかけ回さなくてもいいでしょう。それじゃあ、あなたストーカーよ」
ちづる「だって、あなたはウイークエンド・ヒーローの愛弟子なんですよね?」
奈美「…え?」
ちづる「お願いです。私をウイークエンド・ヒーロー様の弟子にしてください!」
奈美「えーっ!」
ちづる「次回、ウイークエンド・ヒーロー2第四話『これから始めるウイークエンド・ヒーロー』。正義は週末にやってくる… ああ、かっこいいわ!」
奈美「どうしよう…!」
1997 TAKEYOSHI FUJII